#はなれていくホロライブ

先日Vtuber事務所の最大手であるホロライブの音楽ライブ
「ホロライブ3rd fes つながるホロライブ」が開催された。
 
幕張メッセで2日間をかけてカバー株式会社に所属する38のVtuberがライブを行い、
そして同時にイベント展覧会を開いたVtuber業界において過去最大規模の催し物だった。
その規模は著名アイドルグループのライブなどとも遜色はなく、
多数のファンが参加して大盛況のうちに幕下ろした。
 
その盛況さはTwitterのトレンド1位を数時間にわたって独占して、
TVニュースなどでも取り上げられるほどのものであり、
Vtuberが巨大なコンテンツとなったことを多くの人に知らしめることになっただろう。
 
一方で、その盛況さを目の当たりにしながら、ホロライブを追いかけてきた自分にはどこか冷めるような気持ちに包まれていた。
Vtuberの始祖であったキズナアイVtuber四天王の今、
そして先駆者であったにじさんじを通じて現状を見直した時に、
「ホロライブはリスナー達の手元から離れていった」という認識に至ったからだった。
 
私にとって今回のライブは「つながるホロライブ」ではなく「はなれていくホロライブ」だった。
 
その認識に至った理由と、その解説について、
テキストサイトからの伝統と自意識の過剰に依って、怪文書としてしたためておくことにする。
 

◆目次

 ■結論として
 ■Vtuberおよび、にじさんじやホロライブ
 ■Vtuberの人気とリスナーの近さ
 ■リスナーと離れていくVtuber
 ■配信者からタレントへ、更にIPへ
 ■夢と嘘そして現実の生々しさ
 ■企業規模とコンプライアンス
 ■今後の変化と展望
 ■終わりに

 

■結論として

論文などの書き方と同様に、この怪文書の主軸として貫かれる結論を最初に提示しておく。
その結論に導かれる内容となることを留意して頂きたい。
 
当、怪文書で述べることになる結論は、

「ホロライブはリスナー達から離れていき、
 しかし、そして、ますます発展していくことだろう」

となる。
 
 

Vtuberおよび、にじさんじやホロライブ

まず本文を始める前にVtuberとはなにかという認識を共通させておきたいと思う。
前提とする認識の違いは無駄な罵りあいを生むことになるため、
面倒でもちゃんと最初にすり合わせをしておきたいからだ。
 
以下は自分個人の認識であり、またこの認識を前提として怪文書を記載していく。
なおVtuberを知っているという飛ばして読んでも問題はないし、
また私より詳しい方々は記載内容に文句もあったりするだろうが、そこは見逃してほしい。
 

Vtuber

正式にはVirtual Youtuber(バーチャルユーチューバー)。略して現在はVtuber(ブイチューバ―)と呼ばれる。
基本的にはキズナアイを始祖として、イラストや3Dモデルを使い動画や生配信を行う配信者たちのことを総称している。
Youtubeなどでの動画配信を行い収益を上げて当時話題となっていたYoutuberに対して、
キズナアイが自分のことを「バーチャルユーチューバー」と呼称したことが始まりとなる。
 
※ただし、伊達杏子などのバーチャル上でタレント活動を行う存在や、ウェザーロイドなどの3Dアバターを使って動画配信を行う存在は以前からあり、
 ニコニコ動画ではモーションは無いながらもイラストのアバターを使ったり、ゆっくりなどを使い配信を行うといった形式も既に存在していて、
 またVRChatで自作の3Dアバターを作っていた人たちも散見され、現在のVtuberの萌芽・類似する表現は既に存在していたと言える。
 キズナアイは「バーチャルユーチューバー」という呼称を作り、その存在を一つの確固たるジャンルとして確立したことが貢献として大きいと言える。
 
当初におけるバーチャルユーチューバーという存在は、3Dモデル・声・アクション・ゲームはそれぞれ別々の人間が担当し、
バーチャル空間でYoutuber活動を行う仮想の存在として、「設定から話す内容までプロモートおよび演出されたタレント」であり、
理想をかき集めた存在であり、美しい3D・機敏なアクターの動き・プロゲーマーの腕前、声優の可愛らしい声・脚本家によって計算された台本という具合に、
ビジネスニュースなどでは、「スキャンダルがない」など、全てにおいて完璧を揃えたタレントという紹介もされていた。

 

・初期Vtuberたち

2016年のキズナアイの誕生から、
次第と3Dモデリングを使いYoutubeニコニコ動画で動画配信を行うバーチャルユーチューバーを名乗る配信者が出現し始める。
 
2017年から企業および個人で3Dモデルを用意したものが登場し、富士葵やばあちゃる、のらきゃっとなど様々なVtuberが誕生するが、
主にバーチャルyoutuber四天王と呼ばれる以下のVtuber達が人気を博した。

・電脳少女シロ(2022年現在も活動中。TV番組「ガリベンガーV」などに出演している。)
・ミライアカリ(2022年現在も活動中。)
・輝夜月(企業と演者間で確執があり配信終了。)
・バーチャルのじゃロリ狐娘Youtuberおじさん(引退し、チャンネルをマルチチャンネル化。)

 
この中で最も異質な存在であり、現在のVtuberに大きな影響を与えたのは「バーチャルのじゃロリ狐娘Youtuberおじさん」と言っても良い。
バーチャル美少女受肉バ美肉)」を代表する存在としてVtuber知名度を上げたこともあるが、それよりも大きな要素がある。
 
一つに企業にプロモートされていない個人であったこと。
一つに演出され切っていない生身の人間の要素を動画で見せていたこと。
この二つを持ちながら人気を得たことによって、Vtuberの裾野が大きく広がり、
結果としてVtuber多くの参入者を呼び寄せた大きな要因となったと言える。
 
この辺りは後記する「リスナーと近いvtuber」でより詳しく触れるため、ここでは重要であったことを記載するにとどめておく。
 
また、このころにキズナアイを「おやびん」と呼ぶ輝夜月や、
のじゃロリおじさんとのらきゃっとの近しい関係など、
今後のVtuberで欠かすことが出来ない要因となる「Vtuber間の関係性」が、
大きな話題コンテンツとして形式作られていった。

 

・アイドル部およびゲーム部(企業:.Live)

3Dモデリングアバター、および企業によって演出された動画配信、
という点でキズナアイの生み出したVtuberコンセプトを正当に受け継ぎ、進化させたのがアイドル部・ゲーム部だったと言っていい。
また企業ごとに一人だったVtuberをグループとして売り出して、
グループでVtuberをタレント売りし「関係性売り」するという基礎を作った点が大きい。
 
一時期にはもっとも人気のあったVtuberグループであったが、
企業と演者との確執によって様々な問題が噴出して勢いが曇ることになった。
ただその詳細に関しては、当時自分が直接追っていなかったため申し訳ないが割愛させていただく。

 

にじさんじ(企業:旧いちから→現えにから)

当時「3Dモデル」での「動画配信」が主流だったVtuberから、
「Live2D」などの一枚絵・イラストで「生配信」という大きな転換を行い、
現在のVtuberの主流となる形式で売り出したという点でVtuber界における大きな一里塚を造った。
 
3Dに比べて安価に量産できながら、
比較的簡単に高品質に見える質を作り出せるLive2Dを使うことにより、
より短い期間で多くのVtuberをデビューさせた。
 
また生配信という「矢継ぎ早に次のコンテンツを供給できる」という特性によって
「月刊より週刊、週刊より日刊」といった供給の多さも相まって主流となる。
 
一部では3DではなくLive2Dであったことに「割りばし絵」などと呼ばれるといった批判もあったが、
むしろアニメやゲームに近い表現であったことが一般的なオタクにリーチして受け入れられていったと言える。
 
特に月ノ美兎のようなクリエイティブな配信者を起用して「目新しい動画・配信」を供給していくことことで
それまでニコ生のようなオタク文化的な動画をを見ていた層に売り出すことができたことで、
Vtuberが当時のオタク層へと強く広く浸透していく礎となったと言っても過言ではない。
 
またアイドル部と同様に期生やSEEDsといったグループ売りをしていくことで、
企業全体(Vtuber界隈では企業やグループのことを「箱」と呼称する)へのリスナーを招き、
その配信者の多さも相まって、多種多様なリスナーを大きな集団として獲得することに成功した。

 

・ホロライブ(カバー)

カバー株式会社は四天王時代から「ときのそら」をVtuberとしてプロモートしていたが、
Vtuberグループ売りとしての「ホロライブ」はにじさんじから数カ月遅れることになる。
 
ときのそらは3D動画配信だったが、
「ホロライブ」としてはにじさんじの成功を受けたのかLive2D生配信を主体として、更にグループ売りをもった形式でデビューをしていく。
 
当時は男女の交流が当たり前だったVtuber業界で「女性のみ」のグループとして開始し、
初期こそ外部の男性と絡み、ホロライブサマーなどのエロ売りなどもしていたが、次第と「アイドル売り」へと専門化していき、
音楽ライブ配信を始め、Vtuberの中でのAKBや乃木坂的なポジションとなっていく。
 
ただし、その結果として「女性アイドル」として醜聞となりかねない男性との関わりは切り捨てていき、

 例1:27とJK(社築{にじさんじ男性Vtuber}と夏色まつり{ホロライブ女性Vtuber})
    https://www.youtube.com/watch?v=d_K1fJD5-CE
 例2:大空家コラボ(舞元啓介{にじさんじ}男性Vtuberと大空すばる{ホロライブ女性Vtuber}そしてしぐれいうい{イラストレイター個人Vtuber})
    https://www.youtube.com/watch?v=ZVhMFyc8DrU

といった当初では人気であった男女交流を前提としたでのVtuber配信は少なくなり、
一般的なVtuber活動からホロライブは「離れていく」ことになっていった。
 
一部で男女での交流は残っているが全体としては避けられていっている。

 例:みこ「ホロスタとのコラボは……無い、かなぁ」
   https://vtuber-matome.com/vtuber-1704-8329.html

 

Vtuber
Vtuberキズナアイが作り出した形式から様々な変化を遂げて次第と受け入れられていった。
 
しかし、どれだけ変化しても、総じてVtuberに共通することとして
 ▶3Dやイラストといった非現実な現身を持っている
 ▶妖怪や騎士といった非現実的な設定を持っている
といった、現実とは一線を画するバーチャルな側面を持っていることで、
単純な生主のアバターや、イラストを持ったタレントとは差別化されていることが多い。

 
~~~
簡略的なVtuberの解釈と、これまでの発展の流れを記してみた。
流れまで記載したのは、Vtuberと言うものが昔と今では大分違っているため、
どこかで離脱した人や殆ど知らない人には説明が理解しづらい物であるからだ。
(というのは建前で、貯えた知識や解釈の捨て所がなかったたために、ついでだからと書いたというのが本音だ。)
 
さて、以上に記したことは個人的な認識である。
ただ、こういった認識を前提のもとに記載していることをご留意いただきたい。
 
 

Vtuberの人気とリスナーの近さ

前項ではVtuberの歴史から分析を行ったが、Vtuberの今後を書くために、彼らが持つ特性と売れた理由を分析しておきたい。
なぜならば、これこそが「ホロライブがリスナーから離れていく」理由につながっていくからだ。
 
Vtuberが現状に見られるほどにリスナーに受け入れられてきたのには、
以下のようないくつかの理由があると考えられる。

1.3Dやイラストを元としたビジュアルイメージおよび設定
  まず現実のアイドルやタレントまた生主とは違い、理想化されたイラストなどのビジュアルを持っていたことが大きい。
  これはアニメや漫画を好んできたオタクに訴求され、生主やYoutuberとは違うリスナー層を獲得することになる。
  ゆっくり実況を聴いてきたニコニコリスナーや声優ラジオの視聴者層もVtuberのリスナー拡大の一員となっているだろう・
  
2.配信頻度の多さ
  前項からの繰り返しの解説になるが、Vtuberの配信頻度の高さ、供給の多さはリスナーの獲得に大きな影響を与えている。
  ソシャゲは早くて1週間で1イベント、テレビ番組や番組では1週間で30分、漫画でも早くて1週間更新という中で、
  専業Vtuberでは1日更新で数時間、兼業Vtuberでも週に2,3回の更新といったサイクルの早さが大きなアドバンテージとなっている。
  
  更には上位層では1週間に30時間超という膨大なコンテンツ量が、
  より多くの供給を求めていたオタク層に訴求できていた可能性がある。
  事実として同じ事務所内で見た時に、配信時間が長いほど視聴者数が多い傾向がある。
   例:ホロライブの2022年1,2月の配信時間と視聴時間のランキングhttps://twitter.com/Holo_Data/status/1498471655248523266
  
3.Vtuberの多さ
  Vtuberは容姿に関係なく活動できることから、
  当時の生主や配信者にあこがれながら見た目で辛いを思いをしてきた人々の多くがVtuberに流れた側面もある。
  
  特にのじゃロリおじさんや兎鞠まりのような「バ美肉おじさん」が生まれたことによって、
  男性だろうとアイドルのように受け入れられると言った実績が作られて、
  それが配信者たちの参加の敷居が低くしたのも大きいだろう。
  その結果として、Vtuber全体の参加が多くなり、より多様なリスナー引き付けて、視聴者層を増やしていくことに繋がった。
  
4.リスナーとの近さ
  ただ多くの売れた理由の中でもVtuberが人気になった要因として大きな影響があり、
  さらに今現在の問題とも直接かかわってもいると自分が考えいている要因が、
  「Vtuberとリスナーの近さ」である。
  
  既存のTVやアニメやゲームなどと違い、
  Youtuberや生主、そしてVtuberはコメント欄やチャット欄でユーザーと即座に直で反応を返せる。
  即時のレスポンス性の高さが。他と比べて大きな利点となっている。
  また送られたマシュマロやスーパーチャットに対しての「お返事配信」などを行い、
  1対1の対話を疑似的に楽しめるといった、気軽で距離の近い視聴の仕方が出来ることも大きい。
  
  テレビの俳優や、雑誌に出るグラドルでは、気軽にできないようなファンとの距離感の近さが、
  リスナーとの心理的な距離感を縮め、「応援したくなる感情」を作り出していると言える。
  
  この点に関して、過去に現実世界で売れたアイドルやタレントの演出と比較をしてみよう。
   ・視聴者の購買数を引退と結び付けた「ポケットビスケッツ」や「電波少年」からつながる売り出し方
   ・視聴者の投票とアイドルのオーディションとを絡ませて応援する気持ちを煽った「モーニング娘。
   ・ドンキの劇場で会える身近さや、握手会といったファンとの距離感を近づけて売れていった「AKB48
  日本だけの特性なのかもしれないが、
  アイドルには「身近さ」や「自分が応援しなくては」という感情を呼び起こすことが強い売りとなることが多い。
  
  これらと類するようなVtuberとリスナーとの近さが、
  より親身な応援や、より切迫感をファンに感じさせ、支援活動を強くすることになっていったのではないか。
  単純なテレビタレントよりも、グッズの購入を導き、動画再生をしようとしたり、
  スーパーチャット(生配信中の金銭授与、投げ銭とも)を投げようと言った欲求につながっていると私は考えている。

 
一方でVtuberは現世と隔絶した存在としてイラストや設定持っており、
例えばファンタジー世界の住人であったり、例えば架空の学園の生徒であったりと、
夢の世界の存在、またアニメの中の存在といった建前を持たせている。

(例:キズナアイは「電脳世界のAI」という設定を持つ。
   他にもホロライブの猫又おかゆは「おにぎり屋さんで働く猫」、にじさんじの剣持刀也や「剣道部の高校生」という設定がある。)

 
しかし、現在のVtuber達は生配信において、
むしろ逆に中にいる配信者本人の私生活や趣味嗜好をそのまま語っている。

 例1:収録でも帽子を外せない話をするホロライブの湊あくあ(設定メイド) https://www.youtube.com/watch?v=tbK5nP_biXI
 例2:飲み過ぎて改札で吐瀉した話をするホロライブのアキ・ローゼンタール(設定女子高生) https://www.youtube.com/watch?v=QGspko3seVM
 例3:配信中に実の妹を登場させるにじさんじの文野環 https://www.youtube.com/watch?v=hzuaqG4uVOg

このように、Vtuberが虚構だけの世界ではなく現実世界と地続きであることをアピールして、
リスナー達に身近な存在であると、親近感を持たせることに成功しているのではないか。
 
完全に作られたアニメのような理想的な存在とは違い、
現実の芸能人やアイドルに感じるような完全な現実とは違い、
理想と身近さの良い所どり・合いの子のような存在とも言えるかもしれない。
 
※ただし、Vtuberの喋っている私生活が現実に本当のことかは不明で、言ってることが嘘だとバレたことも多い。
 Vtuberの設定とは別に、「中の人の設定」を喋っているだけの可能性は十分にある。

 例1:イタリア旅行中と宣言しながら日本の廃品回収の音が配信に乗ってしまったにじさんじの郡道美玲 https://www.youtube.com/watch?v=JnOjyZjGQXU
 例2:有名アニメのことを知らないと言っていたが元声優であったと噂されているホロライブの大空スバル https://www.youtube.com/watch?v=Mry71kaDmFc

 それでも嘘をついてでも私生活を一種の売り物としているのは多くのVtuberで(生配信者でも同様に)見られる行為だ。
 
また、リスナーとの近さという点では、
上記のような私生活の切り売りによって親近感を呼ぶのとは別に、
Vtuberはその参入のしやすさからリスナーと近い存在としてみなされてきた。
 
それは例えば、Vtuber黎明期の頃に個人勢であり、自作の3Dモデルを使った
「バーチャルのじゃロリ狐娘Youtuberおじさん」が人気を博したことが大きいのではないか。
その目に見えた参入障壁の低さから、
リスナーには「自分達でも配信者側・Vtuberとして参加することが出来る」と感じられた人が多く見られたように思う。
 
加えてVtuber黎明期のVtuber同士の仲の良さも身近さを感じさせるのに大きな影響があった。
Vtuber同士で集まってゲームをしたりオタク談義をする配信には、
げんしけん」や「銀の匙」のような同好の士が集まったサークル的な楽しさがあった。
ある種、Vtuber達のコラボ配信はネットの著名人たちの「サロン」のようにも見えたのかもしれない。
 
「自分も楽しそうなVtuber達の輪の中に入れる入れるのではないか」
「むしろ自分達も輪に入りたい」
そう言った期待もまたVtuberたちを親身に応援させ、親近感を憶えさせ、
やがて地元の高校が甲子園に出るなどというような、
自分達と地続きの伝説として、より応援に熱狂さを増していた点があったのではないか。
 
そう言った点を分析するに至って、
私はVtuberにとって「リスナーとの近さ」は大きな要因だったように考えている。
 
 

■リスナーから離れていくVtuber

しかし、そんなVtuber達とリスナーとの近さが次第とVtuberにとっては、
逆に大きなストレスともなり、多くの問題を生じさせていくことになっている例が見えてきた。
 

Vtuberの行動とリスナーの意見が反発して、互いが敵対していく

即時レスポンスがあるという関係上、発言の距離感も近く、
リスナーからVtuberに対しての苦言や強めのアドバイスなども直で伝わってしまうことになっている。
また距離感の近さに甘えた、馴れ馴れしく無礼な発言も多く見られる。
 
それは批判のような分かりやすいコメントだけではなく、
一例ではあるが以下のようなコメントも配信を邪魔する行為として指摘されている。

 1.ネタばれコメント(配信しているRPGの先の展開をコメントする。例:「この先感動ポイント」など)
 2.プレイ指示コメント(プレイ方法や育成方法について自分のやり方を押し付ける。例:「魔法ビルド以外ありえない」「左見て!」など)
 3.鳩行為(別の配信で起こったことを逐次連絡する。例:「○○さんが話題にしてたよ」「○○さんはもうクリアしたよ」など)

それだけでなく当然として誹謗中傷やセクハラまがいのコメントをするリスナーも散見する。
 
こういったコメントにVtuber側も反発してしまい、
配信中にリスナーへと文句を言ってしまうということが頻繁にみられるようになってきた。
 
Vtuberに関するまとめサイトなどでは、
リスナー等に対する、
▶「お気持ち(傷ついた等の感情を配信やツイートに乗せる)」
▶「張り手(リスナーなどの発言や行動を注意する)」
というのが一つの主要なキーワードになっている始末だ。

 例1:リスナーに苦言を呈されて文句を言うホロライブの常闇トワ https://www.youtube.com/watch?v=VxyDe5jTPkQ
 例2:ファンに「見なくていいから邪魔はしないで」と苦言を呈するホロライブの湊あくあ https://vtuber-matomeblog.com/2022/03/32630/
 例3:自分に対して性的なコメントをするなと苦言を呈するにじさんじ西園チグサ https://www.youtube.com/watch?v=Y3ulTSFTpo0

 
もちろんリスナーに感謝する場面も、「お気持ち」することよりも当然多く存在している。
しかし動画投稿時代と比べて、意見を表明することでリスナーを牽制することが多くなり、
Vtuberの「やりたい配信」と、リスナーの「見たい配信」の意見のぶつかり合いが激しくなっている。
 
このような発言をすることによって
「弱さを抱える等身大の一個人」としてより親身に応援する人(ガチ恋など)が現れる一方で、
Vtuberとリスナーの「心理的な距離が離れていく」要因ともなっている。
 
ある種、Vtuberとリスナーが敵対する関係に陥った時代ともいえるかもしれない。

 

Vtuber同士で内に籠っていく

Vtuberにとってやりたい配信を否定してきたり、
強い批判をしてきたりするリスナーと対立していく反面として、
Vtuberは自分と同じように悩みを抱えているVtuber同士や配信者でより親密になっていく傾向がある。
 
Vtuber同士の仲の良さは自体は良いことだが、それが過剰となり、仲間内で閉じこもってしまい、
本来向き合うべきリスナーのことを気にかけなくなったり、より一層の反発をしていったりといった事態に陥ることも多い。
 
Vtuber同士で馴れあい、リスナーを軽視したことで起きた問題で、
有名なのは、にじさんじで起きた「ドッジボール事件」だろう。
 
事の発端は、にじさんじのライバー30人ほどが、仕事外のレクリエーションとして体育館を借り切って遊んだことだ。
それだけならば、ただVtuber同士の仲が良いというだけの話で終わったはずだった。
 
ただ、それをVtuber達が暴露して自慢したことから、
リスナーからリスクヘッジの問題や配信がなかったことへの不満などで苦言を呈される事になってしまう、
 
更にその苦言に対して、にじさんじのライバー達が反発してしまい、
 >「だってお前らに関係ないじゃんって感じ」
 >「ただしリスナー、お前達は勘違いするな」
といった、リスナーを馬鹿にするような発言をすることで、余計にリスナー達に反発されることになった。
 概要:https://wikiwiki.jp/nizisanzi5ch/%E3%83%89%E3%83%83%E3%82%B8%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%83%AB
 ライバーの発言:https://vtuber-matome.com/vtuber-12197-95359.html
 
 
ここまで重大な事件は余りないが、
それでもVtuber同士と仲良くすることでリスナーとの距離が離れた件は時折見られ、
にじさんじ以外でも、他のVtuberとの交流が多い常闇トワなどは、
「お気持ち」が多いVtuberとして知られている。

 (交流例
  Vtuber最協戦:https://www.famitsu.com/news/202203/18255280.html
  オールスター運動会:https://note.com/cmzgg/n/nc8ad53aef205 )
 (お気持ちに対するリスナーの反応
  「トワってFpsのお気持ちさえなければ凄く魅力的な女の子なのにな」https://www.mangasokuhou.com/?p=114748
  「Vtuber 【常闇トワ】声微妙、性格悪、お気持ち表明、コーン配慮してない」https://vtuber-matome.com/vtuber-7747-49769.html

 
またVtuberを集めてゲーム大会を主催するネオポルテの渋谷ハルなども、「お気持ち」が取りざたされることが多い。

 (「【渋谷ハル】サブ垢でのお気持ちがヤバすぎる件」https://vtuber-matome.com/vtuber-23222-190330.html

 
リスナーからの批判が多いためにVtuber同士が結束していくのか、
それともVtuber同士で内にこもっていくうち、リスナーと反発しだすのか、因果関係は定かではない。
 
しかしVtuberの全体として、
Vtuber同士で特別な関係を築いていく一方、リスナーからは離れていくといった、
Vtuberとリスナーは地続きではない隔絶された世界だ」と拒絶するような対応が増えて来ている。

 

・運営やスタッフとも敵対していく

しかも、このような心理的な隔絶態はリスナーだけではなく、Vtuberと運営会社でも起きている。
 
一番有名な事例で言えば、輝夜月と事務所とのいざこざだろう。

 1.輝夜月の演者であったP丸様。の事務所とのいざこざの暴露 https://twitter.com/p_ma_ru/status/1443557297909682182
 2.輝夜月の休止から1年以上たってのファンクラブ停止 https://kai-you.net/article/81599

 
このような独立や契約解除に至るような重大な事例以外でも、
Vtuberが運営会社への「お気持ち」を表明することは頻繁に起きている。

 1.にじさんじの勇気ちひろが、えにからから妹を配信に出すなと言われた件
  http://virtualyoutuber-matome.blog.jp/archives/12656947.html
  >「妹のアカウントへのフォローやリプ全部消せってえにからに言われた…」
  >「都合の良い所だけ個人事業主だからって言われるのしんどい…」
  >「今までいっぱい我慢してきたけど…」
  
 2.ホロライブの兎田ぺこらが、収益が運営に何に使われているか分からないと暴露した件
  http://jin115.com/archives/52310945.html
  >ぺこらが運営に提案した企画がボツにされた。それが諦めきれなかった。
  >しかし、その後、他の人が同じような内容の企画をしているのを見た。
  >スパチャはぺこらの給料にもなってるけど、運営に行った分が何に使われているかわからない。
  
 3.にじさんじのグウェル・オス・ガールが、許可の出ていた配信企画で配信後に削除を言い渡されて反発した件
  https://myjitsu.jp/enta/archives/98195
  http://yaraon-blog.com/archives/209543
  >グウェルと文野環による配信のアーカイブが、運営の指示によって削除されたことから始まった。
  >運営が問題視したのは、2人がオンラインゲーム『3D人狼殺』にて一般リスナーとボイスチャットしたことだ。
  >(しかし)同じ「にじさんじ」所属ライバーの葛葉が、チャンネル登録者数十人(当時)の無名VTuberと絡んでいたことにも言及。
  >このことから、相手がVTuberであれば“コラボ”という扱いになり、運営からOKが出るはずだという発想にいたる。
  
 4.マネージャーからの連絡をすべて無視していたホロライブの潤羽るしあ
  https://youtu.be/zZAM0UZ6cIg?t=103
  >「全部無視してんの。あの。マネージャーさんからのDMの部屋。」

 
上記のような外部に騒がれるような事態以外でも、
「初期から運営の方針が変わって困惑している」「マネージャーが使えなくて怒鳴った」「運営スタッフのミスにキレた」
といった、事務所や運営方針に対しての不満を述べることは良く見られる光景であり、
Vtuberは長く配信していくうちに所属事務所との確執・軋轢も生じてくるようになる。
 
そう言った溝が広がりすぎた結果として所属していた事務所を辞めて、
個人として独立したり、別の事務所へと移籍することも、Vtuberではよく見かける光景になっている。
ただ、それはゴシップすぎるため、ここでは割愛しておく。
(「キズナアイ 輝夜月 ななもり」「ゲーム部 解散」「夜桜たま 運営」等で調べるとゴシップが大量に出てくるだろう。)

 
 

・孤立していくVtuber精神障害

そうやってリスナーや事務所などとの関係が悪くなっていくことで、
心理的に孤立し、ストレスから生じる病気にみまわれるVtuberも出てくるようになった。
 
ストレスで気を病んだ例を、
ぱっと検索して出てきた物を挙げてみる。

 ▶ホロライブ
  アキ・ローゼンタール(うつ病
  夏色まつり(睡眠障害
  百鬼あやめ(うつ病で度々長期休養)
  紫咲シオン(不眠・精神ストレスで度々長期休養)
  戌神ころね(ストレスで自律神経失調症になり一時活動休止)
  潤羽るしあ(うつ病 ※契約違反で契約解除)
  宝鐘マリン(うつ病で一時活動休止)
  桃鈴ねね(不眠・難聴・うつ病で一時活動休止)
 ▶にじさんじ
  ラトナ・プティ(不安症で一時活動休止)
  伏見ガク(うつ病で一時活動休止)
  黛灰(うつ病で一時活動休止)

  
多くのリスナーに見られ、更には直にコメントをぶつけられる有名Vtuberは、
精神的な重圧も強く、ストレスで配信が出来ない等という事態に陥ることも起きてきている。
これは次項に詳しく述べる。

 
 

■配信者からタレントへ、更にIPへ

リスナーとの近さによって発展してきたVtuberだが、
その近さが要因となって、Vtuberを苦しめている。
 
それがどれだけ関係しているかは不明だが、
Vtuber大手事務所はVtuberたちを「配信者」から「タレント」へと変化させ始めている。
 

・配信と案件

少し前までのVtuberの基本的な収益は
「動画の再生広告料(リスナーが動画を視聴する際に表示される広告からのアドセンス収入)」
「スーパーチャット(スパチャとも。生配信中にリスナーが配信者へお金を支払う)」
「メンバーシップ(メンシとも。月額で入会し特別な配信やイラストを手に入れられる)」
であり、動画投稿や生配信で得られる収入が主だった。
 
しかし、その形態は今ではだいぶ異なった物となっている。
 
現在では大手事務所に所属するVtuberの収入はスパチャなどだけではなく、
「グッズ収入およびライブ収入」と「案件収入」が金額として大きくなっている。
ホロライブやにじさんじといった有名Vtuberは企業から様々な案件を貰い、その報酬を得ているのだ。
 
案件は大まかに分けると2種類存在し、
「プロモーション配信」と「ゲスト出演」とがある。
 
「プロモーション配信」はVtuber自身のチャンネルで、商品を紹介したりする広告的な配信を行うものだ。
 
Youtuberなどで多いのは商品のレビュー配信であったり、体験配信であったりするが、
特にVtuberで多いのは「新作ゲームの紹介」や「自分達のグッズが取れるクレーンゲームの紹介」だ。

 例1:ホロライブの白銀ノエルによる「ヘブンバーンズレッド」の紹介配信 https://www.youtube.com/watch?v=pJ1AOaP1blw
 例2:にじさんじライバーによる「ラグナドール」の紹介配信 https://www.youtube.com/watch?v=70GK4v5xEAQ&t=0s

 
これらは商品を販売する企業に報酬をもらって決まった配信内容を行うものであり、
こう言った配信は通常の配信と同じような形式で行われるものの、
Vtuberが気を配ることになる「顧客はリスナーではなく企業」となっている。
通常の配信がBtoCならば、プロモーション配信はBtoBと言えるだろう。
 
またVtuberは外部の媒体へと「ゲスト出演」することも増えている。

 例1:ホロライブとパ・リーグのコラボ https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000146.000019259.html
 例2:にじさんじとJ1のコラボ https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000395.000030865.html
 例3:にじさんじのライバーが競艇番組に出演する https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000058868.html

「配信者」という枠を超えて、外部の配信、またTV番組やラジオなどに出演するようになってきている。
 
つまりYoutubeの配信という枠にとらわれず、
タレント活動を行って収益を稼ぐ存在へとシフトしてきているということが言える。
そのことで考えると、案件だけでなく「ライブ出演」などもこれに類すると考えられる。

 

・スパチャとグッズ

案件配信だけではなく、昨今のVtuberでは「グッズ販売」も大きな収益となっている。
例えばホロライブやにじさんじでは、Vtuberの記念日に大々的にグッズを売り出している。

 例1:ホロライブ誕生日記念グッズなどhttps://hololive.booth.pm/
 例2:にじさんじ誕生日記念グッズなどhttps://nijisanji.booth.pm/

 
また外部企業とコラボしてグッズを販売している。

 例1:ホロライブとアトレ秋葉原のコラボグッズ販売 https://hololive-summerfes.com/
 例2:にじさんじとユートレジャーがコラボした指輪を販売 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000258.000030865.html

 
さらに重要な事は、
グッズの売り上げがスパチャよりも大きいことを多くの事務所やVtuberが表明している事実だ。

 例1:ホロライブの社長がライブ配信だけではなくグッズ販売が大きいことを語る。 https://youtu.be/OxsD3K6l7so?t=1479
 例2:Re:Actの社長がグッズが収益の中心となって言ると語る。 https://fanicon.net/icon/case/3

 
ある意味で、ここは既存のYoutuber達や現実のタレントとは違った、
イラストをつかったVtuberならではの展開と言うことが出来るかもしれない。
様々なイラストレーターに書かせることで、Vtuber達の新たな魅力を展開し、
また絵師のファンにも注目してもらえることになる。
 
こういった「案件」や「ライブ」、「グッズ」によって
Vtuber達は徐々に配信に頼らずとも収益を上げられるようになってきている。

 
これは、つまり
「リスナーと直接のやり取りが必要なスパチャ」とは違い
「配信も対話もせずに売れるグッズ」が大きな収益となり始めているということだ。
 
さらに踏み込んで言えば
「リスクが高いスパチャ」と
「リスクが低く売り上げも大きいグッズ」と
言い換えても良い。
 
このことを深く掘り下げていくと、
Vtuberと言うものの本質が、
実は配信事業ではなく「キャラクタービジネス」
もしくは「IPビジネス」となってきていると考えることが出来るのではないだろうか。
 
配信を一つの広告手法として新規のキャラクターを売り出し、IPの価値を作り出していく。
IPの知名度さえ確立してしまえば配信しなくても良くなっていく。
ただキャラクターをグッズッとして売っていけばよいのだ。
それはサンリオやディズニー、またポケモンガンダム
日本においてはグッズだけで巨大な市場を形成していることからも分かるはずだ。
 

Vtuberというキャラクター

ここまでで何度も「リスナーとの近さによるリスク」を書いてきたことで察しているかもしれない。
こういった売り出し方が進んでいけば、Vtuberはどうなるか。
当然「配信」というリスクが高く手間がかかる手法を取る必要はなくなくなり、
企業としては「グッズ」や「案件」をこなしていく方が安全で利益が高く、
商売として正しいやり方になってきてしまう。
 
そう言った側面を裏付けているのが、ホロライブやにじさんじの配信頻度の低下だ。
配信全盛期と比べて、この二社に所属するVtuberの配信頻度は低下していっている。
 
例えば以下のようなVtuberの事例があげられる。

 例1:ホロライブ「百鬼あやめ」 配信数2.8回/月(過去半年平均)
 例2:ホロライブ「紫咲シオン」 配信数7.7回/月(過去半年平均)
 例3:にじさんじ「戌亥とこ」 配信数5.6回/月(過去半年平均)

このように1カ月間の内、1/3すら配信をしていないVtuberが存在している始末だ。
 
これらは投稿動画のように編集作業が必要なものではなく、台本もない生配信だ。
特に例1、例2のVtuberは会社員との兼業などではなく、もっぱらにVtuberとしての活動を勤めている配信者である。
それが月に殆ど配信を行っていないのである。
 
このように配信を行わないVtuberは当然、「スーパーチャット」や「動画広告収入」を得ることはできないが、
それでもホロライブやにじさんじでは、Vtuberのグッズを売ることが出来るため、利益を確保することが出来る。
 (例えば、例1の「百鬼あやめ」はこの文章を作成した2カ月前に、
  ファミリーマートととのコラボとしてグッズが販売されている。
  https://www.famitsu.com/news/202201/21248677.html
 
企業としては有名になってファンを獲得した「キャラクター」が存在していれば、配信しなかろうが遊んでいようが、
「キャラクターが存在している」というだけで利益を上げることが出来るようになっていっている。
 
そう言った意味で言えば一時期話題になっていた
Vtuberは「新しいキャラクターの売り出し方」ではなく「ただの絵のついた生主である」』という話題を考えるに、
むしろ「キャラクターの売り出し方」に近づいていっているのではないだろうか。
 
ただし、その反面として、
Vtuberの大手企業は配信をもっぱらに聴いていたような既存の「リスナーから離れて行っている」。

 
 

■夢と嘘そして現実の生々しさ

そういったVtuberの売り出し方の変化の中で、
Vtuberがリスナーに見せているも変化してきている。
 
ありていに言えば「夢」がなくなり、
そして「嘘」をつくようになり、
「現実」の醜さが出てくるようになって来た。
 

・夢

前項までにも書いてきたがVtuberはその多くの場合で、
現実とはかけ離れた「アニメのような設定」を持っている。

 例1:ホロライブ「兎田ぺこら」
   >実家はにんじん農家で、にんじんがとても好きなため、いつでもにんじんを食べられるように、ポケットと髪の毛ににんじんを挿して持ち歩いている。
   >年齢 永遠の111歳
   https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%85%8E%E7%94%B0%E3%81%BA%E3%81%93%E3%82%89
 例2:にじさんじ「リゼ・ヘルエスタ」
   >ヘルエスタ王国の第二皇女であり、社会勉強の一環として配信等の活動を行う。

 
これは一種の現実には存在しないキャラクターであることを明示するユーザーに見せる「夢」の部分である。
現実とは超越した存在にあり、輝いた美しい世界だけを見せるという宣言のようなものだ。
ネズミの国にいるネズミキャラクターのような、顧客を楽しませるために作られた虚構である。

 
一方で、前項までで述べてきた通り、
Vtuberは「生身の生活」を露出することで親近感を売り出し、リスナーを獲得してきた。
そこで必要となってきたのが、「Vtuberの中の人間の生身の生活を飾り付けること」である。
 

・嘘

Vtuber達は中にいる人間の生活を暴露することによって身近さを演出してきたが、
それ故に中身すらも演出する必要が生まれ、外側のキャラクターを形成する設定ではなく、
中身の自分自身を見てもらうために「嘘」をつき始めるようになっていた。
 
嘘に関しては「■Vtuberの人気とリスナーの近さ」の項でも述べているため、軽く触れるだけに留めておく。

 例:ホロライブのさくらみこ
   妹を欲しがるツイートをする https://vtuber-matome.com/vtuber-20773-169132.html
   弟と妹がいることを暴露する http://vtubernews.jp/archives/12943236.html

 
その他にも、いわゆる「百合営業」やグループの仲良しアピールなどもある。
にじさんじあったっけえ」「ホロライブあったけえ」などの仲良しアピールはあるが、
それ自体が胡散臭いものとなってきている。詳しくは次項「・現実」で記載する。

 
同じように虚構である「夢」と「嘘」は何が違うのだろうか。
何も違いはないように見えるかもしれない。
どちらも本質的には「嘘」であり
Vtuberはそもそも嘘をついているのだから「騙される方が悪い」のだというというリスナーの発言もよく見かける。
 
しかし、似たように見えても、理想を演出した「夢」の部分と、
ごまかしで出来た「嘘」は区別して考えるべきだろう。
 
「夢」は誰もが現実には存在しないと分かっているが、
「嘘」は現実と区別がつかず本当のことバレた時に失望を生む。
Vtuberたちが嘘をついて、それがバレていくたびに、
リスナーは本当のことが分からなくなり、Vtuberやその業界のことを信じなくなっていってしまう。
 
嘘は自分達の首を絞め、「リスナーを手放していく」行為だ。
 

・現実

Vtuberは仮想現実というファンタジーの世界に、
演者自身の現実を混ぜることで親近感を演出してきたが、
現実というのは楽しいだけでなく醜さを抱えたものだ。
 
その現実を配信に載せていくうちに、現実の露出の歯止めが聴かなくなり、
現実自体の醜さが段々と暴かれるようになってきてしまった。
例えば以下のような現実だからこそ起きるいざこざが暴露されている。

 1.運営と演者にまつわる金の問題やいざこざ
 ベンチャーで資金難の運営にブラック企業のように使いつぶされるVtuberとの軋轢は良く見られる。

  例1:「(運営は)聴者を数字や金としか見てない」https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1811/14/news086.html
  例2:「“ゲーム部プロジェクト”パワハラ騒動」https://www.businessinsider.jp/post-189286
  例3:「ソロライブ企画を放置した運営にキレる夜桜たま」https://togetter.com/li/1414254

 
 2.事務所の特定Vtuberへ優遇不遇
 Vtuberでは「新衣装」という建前で新しいイラストを公開する。
 そのお披露目配信は再生数が増えてスパチャも多く手に入る一つのイベントとなっているが、
 事務所手動で用意されている衣装の数が、Vtuberごとにが大きく異なっており、分かりやすく優遇冷遇が分かれていたりする。

  例1:にじさんじ衣装数一覧http://vtubernews.jp/archives/11423973.html
     エースである月ノ美兎の衣装は14個、ほぼ同時期にデビューした文野環は4個という差がある。
  例2:ホロライブ3期生の宝鐘マリンと兎田ぺこらで衣装数に差がある https://myjitsu.jp/enta/archives/93432?mobile=off
     その他優遇不遇まとめ http://virtualyoutuber-matome.blog.jp/archives/10796608.html

 
 3.Vtuber同士の仲の悪さ
 Vtuber同士で仲が良くなっていくことを前項までに記載したが、
 逆にそう言った付き合いが深くなるにつれて仲が悪くなって共演NGなどになる関係も露出し始めている。

  例1:コンビとして企業案件にも一緒に参加していたホロライブの兎田ぺこら&さくらみこ(ぺこみこ) https://www.youtube.com/watch?v=uRB1G0cKpIk
     →仲が疎遠になったことを配信でほのめかす https://vtuber-matome.com/vtuber-22595-184063.html
  例2:ホロライブの夏色まつりが、同僚の赤井はあとに不満をぶちまけ炎上 http://blog.livedoor.jp/gunbird/archives/10414420.html
  例3:にじさんじKRのライバー同士のドロ沼訴訟合戦 https://matomame.jp/user/yonepo665/02b402a81896fd00101e

 
 4.一部リスナーへの優遇
 Vtuber側もスーパーチャットを多く支払う一部のリスナーを贔屓しているなどの例が暴露された

  例:ホロライブの潤羽るしあ https://www.youtube.com/watch?v=-uyYS9lODvk

 
理想の世界を演出してきたVtuberではあるが、
現実世界を混ぜ込むような配信をつづけるうちに、
同時に上記に記した醜さも配信の世界へと露出するようになってきてしまった。
 
こういった現実の醜さやいざこざに、リスナーが辟易し始めているといった声も聴かれる。

 
現実世界との近さは、それだけリスナーに対して親近感をおぼえさせるが、
一方でその近さによって「身バレ」や「スキャンダル」といった「炎上リスク」を生み出すことにもつながる。
 
また心理的距離が近くなり過ぎたリスナーを生み「ガチ恋」と呼ばれる厄介なリスナーが増えることになったり、
更にはそれが反転(好きな気持ちがこじれすぎてアンチになること)し拒絶を生むということも起きる。
 
売れるためにVtuberたちの演出してきた、
現実との近さは大きなリスクの温床とも言えるものだったのだ。
 
 

■企業規模とコンプライアンス

さらに言えば前項のような現実の醜さで片付けられるものだけでなく
Vtuberやその事務所が法的・道義的に問題のあることをおこし、ネット上で炎上することが増えてきている。

 例1:ホロライブの桃鈴ねねが他者のイラストをトレースした絵をグッズとして販売していた https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/2203/03/news163.html
 例2:ホロライブの潤羽るしあが企業の情報を故意に漏洩し契約解除 https://trendview.info/news/uruharusia2022why/
 例3:にじさんじのローレン・イロアスがAVを違法DLしていた https://www.menuguildsystem.com/nijisanji-laureniroas-av/
 例4:にじさんじの販売予定だったグッズが他企業のデザインと酷似していた https://trendview.info/news/nizisanji2022maisondefleur/

以上の4件は2022年の3カ月のうちに2社で起きた事をピックアップしたものであり、
全体で言えば更に多くの炎上が起きている。
 
これらの問題からは、
企業規模やリスナー総数が多くなり注目度が上がっているにもかかわらず、
起業したての頃の意識が変わってないようなコンプライアンス意識の低さが見え隠れする。
 
ホロライブやにじさんじは、サービス開始から4年で売り上げ数十億、従業員数100人を超える大企業となる急成長を遂げた。
その急成長に企業のコンプライアンス教育の整備が間に合っていないのかもしれない。
 
これから更に成長していくにしたがって、そう言った問題はきっと解消されていくだろう。
 
しかし即座に解決できる問題ではなく、また注目度の高さから、しばらく炎上が当たり前のようになる可能性も高い。
炎上するほどに界隈が批判され、Vtuberを楽しんでいたはずのリスナーも疲弊していくことになる。
特にディスコードやtwitterなどの同好のコミュニティですら批判が見られるようになっていき、
そうのうちに界隈以外の人間や、詳しく知らない新参を敵視していき排他的な雰囲気が生まれていく。
 
次第次第とリスナー間の心も離れていき、
熱狂的な一部の信者と冷めて離れていく元ファンの二極化が進んでいくことが懸念される。
 
 

■今後の変化と展望

しかしこのような炎上を繰り返しながらも、
ホロライブやにじさんじと言った大手Vtuber事務所はチャンネル登録者数や売り上げを衰えることなく伸ばしている。
なぜなのか。
 
それは恐らくは、質が良く膨大な動画コンテンツを既に充分に作り上げることが出来たからだろう。
炎上をしても、それに興味を持った人々が動画を見始めてリスナーとなっていく。
そして例え今いる一部のリスナーが応援しなくなっても、企業案件をすることで知名度を増やし、
広告を出すことで離れていく人数よりも多くの新規リスナーを獲得し続け、企業の利益が上がるようになって来ている。
 
もっと言えば、今ホロライブやにじさんじが獲得しているのは「リスナー」ではないのかもしれない。
企業の案件に登場し、配信される歌を聴き、グッズを見かけて好きになった「ファン」は「生配信」を見ていないかもしれない。
 
今後、案件やグッズ展開が進んでいくにつれて、それは加速していくことになるだろう。
その段階では「Vtuberファン=リスナー」ではなくなって、リスナーはファンの中の一部でしかなる。、
今後リスナーは、握手会に行くアイドルのファンのように、
「配信まで見に行く一部の熱狂的なファン」という立ち位置になるかもしれない。
 
事実、今現在ですら生配信を見ずに、
「切り抜き(長時間の生配信の一部を切り取って数分の動画にしたもの)」を見るだけというファンも多くなっている。
これからVtuberのキャラクター活用が進んでいけば
Vtuberは配信者ではなくなり、更にリスナーから離れていく。
 
しかし、恐らくは、その結果として更にVtuberは売れていき、巨大化していくだろう。
それは「会いに行けるアイドル」として売れていったAKB48が、
次第と巨大化してテレビ出演などが増えて、一人当たりの公演が少なくなっていっても、
例え遠くで眺める存在になっても、
むしろ人気となって売れていったようにだ。
 
一般層においては多大な時間をつぎ込んで追いかけるコンテンツは避けられる。
より多くのファンを獲得したいなら、「表層をちょっと撫でただけでも楽しめる」ことが求められていく。
 
Vtuberたちは一緒に時間を過ごして共に楽しんでいた存在から、
羨望して眺めあげ、そして崇拝していく存在へと移り変わっていく。
それはオタクたちがどれほど泣き叫んで縋りつこうとも、
彼らや彼女たちは構わずに離れていくことだろう。
 
いや離れていくことしかできないのだ。
 
なぜならば、そこまで有名になったタレントのファンと言うものは、
ある種巨大な怪物のようなものだからだ。
ファン個人個人の力や発言は弱くても、その数はあまりにも多くなり、
それが一斉に少し近づくだけでも、そして発言するだけでも、大きな力となりタレントを傷つけかねない。
 
Vtuberやタレントのような「たった一人の存在」と、巨大な規模となったファンは一緒はいれないのだ。
お互いが傷つけあわない「適切な距離へと離れて行かなくてはいけない」。
それはTVタレントであろうとVtuberであろうと同じことだろう。
今までが「近すぎた」だけだ。
 
Vtuberは動画配信サイトという新しいメディア媒体で、
新しい芸術の発展をしていくのではなく、
最終的に既存のタレントたちと同じ売り方に収斂していくことだろう。
 
 

vtuber全体の話

とはいっても、Vtuber達の全てがリスナーから離れて行っているわけではない。
当然のことながら大手となっていないVtuber達の距離は近いままだ。
 
しかしながら、ホロライブやにじさんじに所属するVtuber達が伸びていくの対照的に、
多くのVtuberが雨後の竹の子の如く増えていきながらも、殆ど伸びることもなくなった。
利益が上がらずに撤退・引退していく者たちが続出するようになっている。
 
それはアイドルがAKB系列やジャニーズに集約されてしまい、
それ以外は地下アイドルの如くにくすぶっているのと近いかもしれない。
 
例えばホロライブやにじさんじは新人Vtuberをデビューさせているが、
その伸び具合は他の事務所と比べてみても圧倒的に違う。
 
以下に例を挙げて比較してみよう。

 例1:ホロライブの新人「ラプラス・ダークネス」 2021/11/26デビュー チャンネル登録者数 74.2万人
 例2:にじさんじの新人「ローレン・イロアス」 2021/7/22デビュー チャンネル登録者数 27.8万人
 例3:VERSEⁿ(ソニー・ミュージックレーベルズのブランド)「カガセ・ウノ」 2021/11/19 チャンネル登録者数 6120人

大手企業の力を使っても、この格差である。
今は大手の事務所に所属しなければ伸びることが出来ないという状況になっていることが分かる。
 
では、ホロライブやにじさんじに入れば良いのか?というとそうはいかない。
ホロライブやにじさんじのオーディションは狭き門であり、
また配信経験者でなければならないと言った条件がある。
 
纏めると
Vtuberとして大成するためには大手の事務所に所属する必要があり、
そのためには配信経験を積む必要があるということだ。
つまり、
Vtuber達は個人配信者や弱い箱で経験を積み、そして実力をつけることで、
成功した箱へと移籍していくというのが目指す流れになっている。
 
そこで問題となるのが、Vtuberの事務所がTVタレントなどと違い特異であることだ。
 
新しいVtuberの事務所でデビューするには、過去の芸名や姿形は捨てなくてはいけない。
(この辺は「Vtuber 前世」などで検索してもらう方が話が早いかもしれない。)
過去に配信していた経歴などは話すことは出来ず、
文字通り「リスナーと離れる」必要がある。
 
逆に売れなければ、将来が見通せず辞めていき、
本当に「リスナーと離れなくてはいけない」。
 
個人勢や中小事務所がはぐくんできたVtuberとリスナーの近さは、
ホロライブやにじさんじによって引き離されて、収奪されていく事しかできない。
 
 

■終わりに

結局のところ、
売れていくにしろ、引退するにしろ、Vtuberたちはリスナーと離れていく。
そしてリスナー達も離れることを覚悟しておく必要がある。
Vtuberが生まれてから、ずっとそうだったのだろうが、互いの距離は絶えず変化していくものだ。
 
私がホロライブの3rd fesを見た時に感じた「離れていった感覚」は、
これまで述べた前提を考えれば私にとってこれからもっと強い実感となっていくことだろうことは想像に硬くない。
 
今までのホロライブやにじさんじと言った、
大手Vtuberとの距離はとても近く感じられて、
奇跡的に自分に合っていたのだろうが、
今後はそう感じることも少なくなっていくように思う。
 
しかしそれはVtuber達にとって輝かしい未来に進んでいるということでもあるだろう。
ただ、それが自分に合わなくなってきているということだけだ。
 
これから更に「ホロライブはリスナーから離れていく」。
それは実感としていつまでも変わらない。それが良いという人もきっといる。
良い悪いではなくそう言うものだということが私は言いたかった。
 
さて、ここで文章を終えたいと思うが、
こういった時に「幸多かれ」というような文章で締めくくることが多い。
正直、ああいった「悟りすました態度」は気持ちが悪いのでやめておく。
あちらも別にこちらのことなど興味がないだろうし、
幸など願われたくもないだろう。
だからこう言っておく。
 
私も君たちには興味がなくなった、さようなら。